6-5. WWF Water Risk Filter(WWW WRF)

6-5-1. リスク評価のフレームワーク

LEAPアプローチのLocateフェーズ(L4)では、「要注意地域」の特定を要求しています。「要注意地域」には、生物多様性の視点のほかに「物理的な水リスクが高い地域」が含まれています。この観点から探索する際に使用されるツールのひとつにWWW WRFがあります。WWW WRFは、2012年に公開されたツールで、WWW BRF とセットで公開され、無料で使用できます。2年ごとにデータを更新し、2006年からVer.3.0が公開されています。

WWW WRFでは、流域リスクおよび操業リスクを評価できます。そのフレームワークは3段階の階層で構成されています。

最下層のレベル3は指標です。物理的リスクで24指標、規制不備リスクで32指標、評判リスクで10指標の合計64指標で評価しています。物理的リスクは、水量や水質、アクセス性のリスク、および周辺の生態系へ悪影響を及ぼすリスクです。規制不備リスクとは、規制を遵守して操業したとしても、規制が不十分であると、環境汚染を生じさせて企業価値を損ねたり、損害賠償を要求されたり、事業運営に不可欠な生態サービスの劣化をもたらしたりするリスクです。国単位で評価されています。評判リスクは、水に関して持続可能で責任ある事業運営に対してステークホルダーや地域社会の認識から生じるリスクです。操業リスクの評価では、サイトレベルで記入するWWF WRF操業質問票が指標に対応しています。この質問票は、簡易版(10問)と詳細版(22問)の2種類準備されていて、簡易版でも評価は可能ですが、詳細版の方が評価の質が高くなるため、詳細版の使用を推奨しています。

レベル2はカテゴリーです。流域リスクでは、64の指標が23カテゴリー(6の物理的リスクカテゴリー、14つの規制不備リスクカテゴリー、3つの評判リスクカテゴリー) にグループ化されています。操業リスク評価では、6つの操業リスクカテゴリーに集約されています。ただし、操業リスクに関しては、Webでの評価内容とWRF Interpretation Guidanceの図2とでは、2026年5月時点でカテゴリーの名称が異なっています。

レベル1はリスクのタイプです。流域リスク評価および操業リスク評価ともに物理的リスク、規制不備リスク、評判リスクの3つのリスクタイプに集約されます。

6-5-2. WWF WRFの構成

モジュールは、EXPLORE、ASSESS、ACTの3つがあります。ただし、Actは2026年5月現在開発中です。

EXPLOREモジュールは、世界地図上に流域リスクを色表示するツールです。「マップ」、「シナリオマップ」、「国別プロファイル」のモジュールがあり、さらに、WWW WRFの使用方法や解説文書を掲載しているWebサイトの入口である「データ・方法論」があります。「マップ」では、世界地図上でリスクのタイプ、カテゴリーおよび指標のレベルで流域リスクを5段階で色表示します。「シナリオマップ」では、楽観的、現状、悲観的なシナリオに基づいた2020年、2030年、2050年の流域リスクをタイプおよびカテゴリーレベルで10段階の色表示をします。ただし、2026年5月現在では、2024年版(Ver.2.0)のデータに基づいて表示されます。「国別プロファイル」では、国単位の物理的、規制不備および評判のリスクレベルで流域リスクを5段階で色表示します。さらに、エクセルにダウンロードすることにより、カテゴリーレベルでリスクを把握でき、国レベルのみならず日本の場合では都道府県レベルで流域リスクを探索できます。

このモジュールの「マップ」で、日本について調べてみると、カテゴリーレベルでは地図上で「極めて高い」と評価される項目は流域物理的リスクおよび流域評判リスクではありません。

しかし、指標レベルでは、流域物理的リスクで9指標、流域評判リスクでは4指標で「極めて高い」と表示される地点があります。規制不備リスクでは、「9. 権利、アクセス、および資格」がカテゴリーレベルで「極めて高い」と評価され、指標レベルでは「8. 範囲設定」で「極めて高い」と表示されている項目が多くなっています。

「シナリオマップ」は2026年5月現在、Ver.2のデータに基づいて結果が表示されますが、日本を対象に調べてみると、洪水のリスクが関東以南で、生物多様性の重要性のリスクが東北以南で高リスクと表示されています。水質、生態系サービスの状況、および紛争でリスクが中程度と表示されている地域があります(メディアの監視は国として中程度のリスク)。このほかの項目、すなわち水不足、持続可能な環境、管理手段、インフラと財政、および文化的重要性は低リスクと表示されています。しかし、悲観的シナリオの2050年の結果では、制度とガバナンスのみが、現在の低リスクから2050年では中程度のリスクに高まるため、変化が大きいと表示しています。

ASSESSモジュールは、流域リスクおよび操業リスクを評価できるツールです。使用者登録をして、サイトを登録することにより利用できます。流域リスクは、サイトの地点(所在地、緯度・経度座標など)を登録することにより、モジュールの算定結果に基づいてリスクが判定されます。一方、操業リスクは、モジュールで準備されている質問に回答することによりリスクが判定されます。

ASSESSモジュールには、流域リスクと操業リスクを2軸上にプロットして表示する機能があります。さらに、水不足、水質、紛争、制度とガバナンス、メディアの監視、規制、評判、環境支援に関しても、流域リスクと操業リスクを2軸上にプロットする機能があります。多くのサイトに関して水リスクの対する取組みの優先順位を検討する際に有用ツールとして活用できます。

6-5-3.使用者登録して印刷産業を評価した結果

使用者登録することにより、世界の任意に地点の水リスクを診断することができます。そこで、新得町役場および東京都庁の所在地を登録して評価してみます。WWW WRFには業種分類に「印刷業」がありませんので、「オフィスまたは専門サービス(Offices & professional services)」で登録しました。

地理的位置の違いに関しては、操業リスクではカテゴリーレベルでも両地点で差がありません。この要因は、WWF WRF操業質問票に、代表的なオフセット印刷工場を想定した内容で同一の回答したことにあります。つまり、小規模なオフセット印刷工場の操業水リスクは小さいと考えることができます。一方、流域リスクでは差があります。特に、LAEPアプローチのLocateフェーズで考慮しなければならない物理的な水リスクでは、地域によって大きな差があります。指標レベルでは、沿岸富栄養化の可能性、化学物質、淡水資源の乱用、淡水生物多様性の指標では大きな差があり、東京都庁で高くなっています。また、両地点に共通して、リスクが高いのは生物化学的酸素要求量(BOD)、農薬と外来種で、農薬と外来種は極めて高いと評価されています。

以上から、印刷産業の操業に関する水リスクは高くなく、流域リスクは地域によって差があるものの、化学物質、水使用と排水のBOD、生物多様性に関する考慮が必要です。

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