同一のバイオームでは、地域が異なっていても、同様の種類の生態系サービスを提供する可能性が高く、また、同様のインパクト要因により同様の影響を受ける可能性も高くなります。このためTNFDでは、「バイオームガイダンス Version1.0 September2023」(以下、バイオームガイダンス)を作成し、代表的な6種類のバイオームについて、生態系サービス、バイオーム固有のインパクト・依存・リスク・機会の具体例、評価指標とメトリクスなどを紹介しています。
バイオームとは、気候条件や地形に決まる生態系のことをいい、「生物群系」や「植物群系」と訳されます。TNFDでは、バイオームを次のように定義しています。
「地球規模のゾーン、一般的に、平均的な降雨量と気温のパターンに対応して生育する植物の
種類によって 定義される。例えば、ツンドラ、サンゴ礁、サバンナなどである。」
また、バイオームガイダンスでは、以下のように説明しています。
「バイオームとは、世界中のさまざまな場所に存在する生態系(熱帯雨林など)の一種であり、
一般的に、平均的な降雨量と気温のパターンに応じて、バイオームが支える植物の種類によって
定義される。」
TNFDでは、バイオームとして、国際自然保護連合(IUCN)の地球規模生態系類型論(GET)として知られる分類を採用し、25分類に分けています。
バリューチェーン全体では様々なバイオームと接点を持っています。たとえば、バイオームガイダンスでは消費財が関連するバイオームとして、「熱帯および亜熱帯林 (T1)」、「集約的土地利用システム (T7) − 都市および産業生態系を除く」、「集約的土地利用システム (T7) − 都市および産業生態系 (T7.4)」および「河川および小川 (F1)」を例示しています。印刷産業も、紙を使用するため「熱帯および亜熱帯林 (T1)」とも関連がありますが、ここでは直接操業に限定して考えてみます。
印刷産業は、「5-2.印刷産業の特徴」で述べたように、「地域密着型・地場産業的特性」の特性があり、「都市圏近郊型立地」です。すなわち、田園地帯や海岸部に孤立して立地しているのではなく、顧客と地理的に距離が近い都市部や工業団地に立地しています。バイオームの分類では、「集約的土地利用システム (T7)」のサブバイオーム「都市および産業生態系 (T7.4)」(以下、T7.4)に該当すると考えます。
このT7.4バイームは、人間の活動によって形成され、人口密度が非常に高い特徴があります。また、自然生態系の転換に由来し、自然生息地を犠牲にして拡大し続けていることも特徴です。そして、このバイオームでは、人間が自然に与えるインパクトの大部分が気候変動に寄与する温室効果ガス排出やその他の汚染です。一方で、自然の生態系から切り離されているわけではなく、都市近郊の公園で絶滅危惧種が発見されることもあることをバイオームガイダンスでは紹介しています。
T7.4バイオームにおける自然への最も重大なインパクトは、自然生態系が都市・産業生態系へと転換されることによる生息地の喪失です。しかし、都市開発は印刷産業の事業活動ではなく、既に都市化された地域や工業団地で操業しているため、印刷産業のインパクトとはなりません。バイオームガイダンスでは、T7.4サブバイオームで行われる事業活動から生じる一般的な自然変化の要因として、陸地・淡水・海洋利用の変化、資源の使用/補充、汚染/汚染除去および気候変動を挙げています。印刷産業では事業活動として輸送、工業用水の使用、排水処理および廃棄物管理が関係し、インパクト要因はGHG排出、水質汚染物質排出、GHG以外の大気汚染物質排出、水の使用、土壌汚染物質排出となります。依存する生態系サービスは、淡水供給、文化的サービス、土壌と土砂の保持、大気浄化、洪水緩和、水流調整、地域の気候調整、騒音低減があります。

リスクと機会に関しては、T7.4バイオームではエネルギーや資源を消費し、都市の人口と面積の増加は、気候変動、資源採掘、汚染などの自然変化の要因を増加させます。このことは、社会的、経済的、そして政策的に重大な影響を及ぼしているため、考慮すべきリスクと機会は多岐にわたるとバイオームガイダンスでは説明し、自然関連のリスクの例を挙げています。しかし、依存とインパクトとの関連性は不明です。

印刷産業の関連するリスクの例を抽出すると以下の項目です。
・ 洪水発生に伴う費用および収益の損失
・ 都市植生による騒音緩和効果の低下による事業価値の損失
・ 大気質および水質のモニタリングの義務化
・ 温室効果ガス排出量のモニタリングの義務化
機会は以下の項目です。
・ リサイクル、水の再利用、廃棄物管理システムの導入など、環境負荷の少ない技術への移行を図る
・ 持続可能な消費パターンを促進するために消費者が必要とする情報の提供
・ 都市の生物多様性保全の支援
バイオームガイダンスでは、T7.4バイオームの問題の評価を支援するための指標の候補を提示しています。印刷産業に適用可能な指標には以下があります。
・ 廃水総排出量
・ 廃水中の溶解性および浮遊性物質の濃度
・ 総固形廃棄物
・ 総淡水供給量(飲用および非飲用目的の表層水と地下水)

以上から、印刷産業に関してまとめると以下のようになります。
