○ 環境関連法の法案提出、改正
2025年通常国会(第217回)に環境関連では以下の6本の法律が提出されました。注目は⑥の『労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案』で、成立すると中小企業に対しても労働安全対策の強化が必要になります。
① 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案(内閣官房)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DDE5C6.htm
概要:排出量取引制度の法定化、化石燃料賦課金の徴収に係る措置の具体化、GX分野への財政支援の整備、再生資源の利用義務化、環境配慮設計の促進、GXに必要な原材料等の再資源化の促進、サーキュラーエコノミーコマースの促進
② 海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案(内閣府)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DDE9EE.htm
概要:排他的経済水域における海洋再生可能エネルギー発電設備の設置を許可する制度の創設
③ 環境影響評価法の一部を改正する法律案(環境省)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DDEBA2.htm
概要:既存の工作物を除却又は廃止して、同種の工作物を同一又は近接する区域に新設する事業を実施しようとする場合の手続きの明確化
④ 鳥獣保護管理法改正案(環境省)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DDE59E.htm
概要:市町村長がクマ等の銃猟を捕獲者に委託して実施させる(緊急委託)ことを可能にする
⑤ 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案(厚生労働省)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DDED36.htm
概要:個人事業者等に対する安全衛生対策の推進、職場のメンタルヘルス対策の推進、化学物質による健康障害防止対策等の推進、機械等による労働災害の防止の促進等、高齢者の労働災害防止の推進
○ 大規模山林火災の発生
トランプ政権が復活しパリ協定から離脱が発表されるなど環境政策の後退する中、金融機関の脱炭素の国際的枠組みで、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質的にゼロとすることを目標にする「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」から日米の金融機関の脱退が相次いでいます。また、欧州でも企業サステナビリティ報告指令(CSRD)、企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)、EUタクソノミー規則、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の簡素化を実現する「オムニバス法案」が発表されています。環境問題に対する機運が退潮していると感じられる状況にあります。
このような状況でも、気候変動が要因のひとつであるとも指摘されている山林火災が今年に入って頻発しています。アメリカ・ロサンゼルス火災は1月7日に発生し、焼失面積は約150km2、損壊家屋1万6200棟以上、少なくとも29が死亡、最大で約18万人に避難命令が出される大規模な被害が発生し、31日なって鎮圧されました。日本でも、岩手県大船渡市で2月19日から山林火災が相次いで発生し、26日に発生した火災は市の面積の約10%の約2900ヘクタールが消失し、建物への被害は210棟に及び約2,500人に避難指示が出される被害が発生しました。まとまった雨が降った後の3月9日なって鎮圧が宣言されました。3月に入っては、23日に岡山市南区および今治市で、25日には宮崎市でも発生しました。韓国南東部でも焼失面積約4万8000ヘクタール、全焼住宅3000棟以上、死傷者75人の山林火災が発生しました。
これらの山林火災は人為的な要因が出火の原因とも推測されていますが、極端な乾燥と強風が火災拡大の要因と指摘されています。国連環境計画(UNEP)が2022年に発表した報告書では、地球温暖化によって山林火災の発生リスクは2030年までに14%、2050年までに30%に急上昇、2100年には50%に達するとされています。1月に公表された「グローバルリスク報告書2025年版」でも、「異常気象」は今後10年間のグローバルリスクのトップに挙げられています。
○ 気候変動関連
地球温暖化対策計画(温室効果ガス削減目標)、第7次エネルギー基本計画、改訂GX2040ビジョンが公表されました。
環境省は、脱炭素に向けた取組みでは「知る」「図る」「減らす」の3ステップを踏むことを推奨し、グリーン・バリューチェーン プラットフォームで解説しています。ここには、各種ガイドラインも掲示しています。2月に経済産業省と連名で「カーボンフットプリント表示ガイド」を公表しました。これは、カーボンフットプリント(CFP)表示や背景情報の提供を推進し、企業の取組促進と消費者の行動変容につなげる目的で作成されたもので、グリーンウォッシュを防ぐためにも、その表示方法と算定に関わる情報の提供に関する考え方を示しています。また、CFPの比較の表示についても考え方を示しています。表示する際はCFPの結果に加え、算定の単位、ライフサイクルステージ、算定報告書へのアクセスなどの情報を見やすく、理解することが可能な大きさで示すことを要求しています。比較の結果を表示する場合は、誤解を招かないように、定量的な情報に加え、計算ルールや判定ルールなどの説明文などの情報を示すことを要求しています。算定方法については、「カーボンフットプリント ガイドライン」(令和5年3月発行)および「(別冊)CFP実践ガイド」(令和5年5月発行、令和6年3月改訂)が発行されています。さらに、環境省は3月に「CFP入門ガイド」、「1次データを活用したサプライチェーン排出量算定ガイド」を追加し、更新版「バリューチェーン全体の脱炭素化に向けたエンゲージメント実践ガイド」を公表しています。
地球温暖化対策計画(PIEMS-Lab解説はこちら)では、新目標として「2035年度、2040年度において、温室効果ガスを2013年度からそれぞれ60%、73%削減することを目指す」が掲げられました。第7次エネルギー基本計画(PIEMS-Lab解説はこちら)では、この目標と整合させて、2040年度電源構成は、再生可能エネルギーによる供給を4~5割程度、原子力発電は2割、火力発電を3~4割と見込むとしています。再生可能エネルギーの内訳としては、太陽光23~29%、風力4~8%、水力8~10%、地熱1~2%、バイオマス5~6%と見込んでいます。改訂GX2040ビジョン(PIEMS-Lab解説はこちら)は、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素を同時に実現するGXの長期ビジョンで、産業構造や産業立地、カーボンプライシング構想など戦略が立てられています。中小企業に対しては、「見える化と目標設定」の必要性が言及されています。
合成メタンの製造、JCMクレジットの国際認証などの状況を踏まえて政令などが改正されたことから、『温対法』の「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル(ver6.0)」が改訂されました。主な変更点は、①直接排出と間接排出を区別した報告、②基礎排出量のうち他人から供給された電気・熱の使用に伴うCO2排出量の算定方法の変更、③カーボンリサイクル燃料の控除、④海外認証排出削減量の見直し(JCMクレジットが利用可能)です。これにより、報告様式も変更され、令和7年度の報告(令和6年度実績報告)から適用されます。ただし、CO2換算排出量が年間3,000トン未満の排出量である法人は『温対法』の報告が不要であり、年間3,000トン以上であっても常時使用する従業員の数が21人未満であれば報告は不要です。印刷産業の算定については、「温対法施行令改正に伴う印刷業界の影響について」を参考にしてください。
○ サステナビリティ情報開示
サステナビリティの情報開示基準(SSBJ基準)が3月5日に公表されました。これは、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が2023年6月に公表した国際基準(ISSB基準)を受けて、日本の法制度や市場の特性を踏まえて、日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が策定したものです。企業のサステナビリティ関連の財務情報を標準化し、投資家をはじめとするステークホルダーに透明性や信頼性が高い情報を提供することが目的です。
SSBJ基準は3つの基準で構成されています。1つ目は「ユニバーサル基準」で、サステナビリティ情報を作成する際の基本的な事項を定めています。2つ目は「テーマ別基準第1号(一般開示基準)」で、企業がサステナビリティ関連のリスクや機会を特定し、それらが財務状況や業績に与える影響を開示するための全般的な事項を定めています。3つ目が「テーマ別基準第2号(気候関連開示基準」)」で、気候関連に限定して開示するための事項を定めています。ISSB基準は「IFRS S1号(サステナビリティ関連財務情報開示の開示に関する全般的要求事項)」と「IFRS S2号(気候関連開示)」の2つの基準で構成されていますが、SSBJ基準では「IFRS S1号基準」が「ユニバーサル基準」と「テーマ別基準第1号(一般開示基準)」に分割され、3つの基準で構成されています。
「サステナビリティ関連財務開示」の定義が「ユニバーサル基準」で行われていて、「企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得る、報告企業のサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報(それらのリスク及び機会に関連する企業のガバナンス、戦略及びリスク管理並びに関連する指標及び目標に関する情報を含む。)を提供する開示をいう。」と定義しています。すなわち、「企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得る」情報、例えば生物多様性や人権問題に関する情報を開示する場合は「テーマ別基準第1号(一般開示基準)」に従うことが求められます。
SSBJ基準は時価総額に応じて順次適用が義務化される方向で金融庁の審議会で議論されています。3兆円以上は2027年3月期から、1兆円以上は2028年3月期から、5,000億円以上は2029年3月期から義務化され、有価証券報告書で開示する方向です。最終的にはプライム市場上場企業に適用されることになっていますが、時期は未定です。
○ 資源循環
昨年8月に「第五次循環型社会形成推進基本計画」が策定(PIEMS-Lab解説はこちら)されたことを受けて、『廃棄物処理法』第5条の2第1項の規定に基づき定められている「廃棄物の減量その他その適正な処理に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な方針」が改訂されました。改訂されたのは「指標」の箇所で、改訂前は13指標でしたが、改訂後は11指標となりました。食品ロス、家電リサイクルおよび小型家電リサイクルに関わる市町村数の指標が削除され、新たに「一人一日当たりの焼却量」が追加されました。事業者に関わる指標(R12年度目標)は「産業廃棄物の排出量(R4年度比1%増加に抑制)」、「産業廃棄物の出口循環利用率(約37%)」および「産業廃棄物の最終処分量(R4年度比10%削減)」の3指標です。
『グリーン購入法』基本方針が見直され、「GP認定制度」および「環境推進工場認定制度」が基準として追加されました。これは、今回の見直しの視点のひとつに「2段階の判断の基準」の活用拡大があり、役務「22-2 印刷」のプレミアム基準要件のひとつに「GP認定制度」または「環境推進工場認定制度」の認定取得が追加されました(PIEMS-Lab解説はこちら)。
○ 自然共生
生物多様性条約第16回締約国会議(CBD-COP16)の再開会合が2月25~27日にローマで開催されました。環境省の報告では、モニタリング枠組、資源動員、他の国際機関等との連携、締約国会議の複数年作業計画の4項目で採択されたとなっています。新聞報道では、昨年10月開催のCBD-COP16で懸案事項のひとつであった資金メカニズムについては2030年までのロードマップで議論を継続するとしています。