2024年度第3四半期まとめ

○ 注目の国際会議

 2024年度第3四半期には、環境関連では4つの世界会議が開催されました。開催順に列記すると、①10月21日(月)~11月1日(金)にコロンビア共和国・カリで開催された生物多様性条約第16回締約国会議(CBD-COP16)、②11月11日~24日(2日延長)にアゼルバイジャン・バクーで開催された国連気候変動枠組条約第29 回締約国会議(COP29)、③11月25日から12月1日に大韓民国(韓国)の釜山で開催されたプラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた第5回政府間交渉委員会(INC5)、④12月10日~16日にナミビア共和国・ウィントフックで開催された生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)総会第11回会合です。新聞報道や情報サイトをまとめると以下のような結果です。

 ①のCBD-COPでは、前回のCOP15では「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」が採択され2030年までのグローバル生物多様性枠組み合意される成果がありましたが、今回のCOP16では目立った成果はありませんでした。遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)の使用者が利益の一部をグローバル資金(カリ資金)に拠出することを締約国が促すことの決定、生物多様性の取組と気候変動対策の潜在的なシナジーを特定し最大化することなど盛り込んだ文書の採択などの成果にとどまりました。

 本会議よりもサイドイベントに注目が集まったようです。

TNFDは、「市場によるデータへのアクセスに関するロードマップ」および「自然移行計画(Nature Transition Planning)ガイダンス」の案を発表しました。前者は、自然関連の既存データを企業や金融機関などがアクセスしやすいようにする分散型データプラットフォーム「Nature Data Facility」の構築に向けたイニシアチブで、来年2025年1月までパブリックコメントを募集し、2025年末完成を目指しています。一方、「自然移行計画(Nature Transition Planning)」は、企業および金融機関の戦略及び意思決定に自然関連の依存、影響、リスクおよび機会を取り入れることを支援する文書です。「自然移行計画」を「 昆明・モントリオール生物多様性枠組み(GBF)に対応・貢献するための、組織の目標、ターゲット、アクション、説明責任のメカニズム、意図するリソース」と定めています。意見募集を2025年2月1日まで行っています。

 また、Nature Positive Initiative(NPI)は、「自然状態の指標(State of Nature)」案を発表しました。気候変動対策はGHG排出量というグローバルな指標がある一方、生物多様性を含めた自然環境保全では地域により重大性が異なるため統一的な指標がなく、ネイチャー・ポジティブを測定する指標がありません。NPIの取組みはこの課題に対応するもので、自然の状態を示す指標として、生態系の範囲、生態系の状態、景観の完全性および種の絶滅リスクをすべてのユーザーが測定、追跡、報告しなければならない指標とし、さらに5つのケース固有の指標を提案しています。意見募集を終了し、2025年に公表される予定です。NPIは、ネイチャー・ポジティブという用語の使用に関する連携を促進し、ネイチャー・ポジティブな成果をもたらすための、より広範で長期的な取り組みを支援するために、自然保護団体や研究機関、企業や金融機関の27団体が集まって2023年9月6日に設立された組織です。

 ②のCOP29は、日本を含め主要国首脳が出席を見送り、主要7カ国(G7)から首脳級会合に出席したのはイタリアと英国だけの開催で、会期を2日間延長されたにもかかわらず、排出削減や吸収源拡大、化石燃料の脱却、いわゆる“野心”の向上では成果が乏しい結果でした。成果があったのは“実施”に関する分野で、先進国から途上国への金融支援に関しては、現在の目標である公的資金を年1000億ドルから年3,000億ドルに拡大し、さらに民間資金・投資を含めて最低年1兆3,000億ドルを2035年までに拠出する行動を求めることで合意され、「金融支援のCOP」と呼ばれたCOPの成果です。また、パリ協定第6条(炭素市場)に関して、削減や吸収・除去の量を分配する際に必要な政府の承認・報告や登録簿の接続等の細則が決定されカーボンクレジットの売買に関するルールが決定しました。

 ③は、海洋汚染問題にまで発展したプラスチック汚染問題に対応するために2022年3月に第5回国連環境総会再開セッションで採択された「プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際約束に向けて」に基づいて設置された委員会で、これまでに4回開催され、アメリカ大統領交代前に条約の採択を目指していました。しかし、プラスチックの生産規制やプラスチック生産時に使う化学物質や使い捨て製品の使用制限、途上国の廃棄物管理を支援する資金負担で、生産国と途上国の意見の隔たりを埋めることはできず、合意は先送りされました。

 ④に関して、IPBESとは生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価し、科学と政策のつながりを強化する政府間組織で2012年4月に設立された組織です。12月の会合の環境省の報道発表では、2つの文書および第2次地球規模評価の実施内容が承認されはと報告されています。このうちの「生物多様性、水、食料及び健康の間の相互関係に関するテーマ別評価(ネクサス・アセスメント)」では、生物多様性、水、食料、健康、気候変動のネクサス(相互作用)を考慮してこれらの危機に対処することが効果的であることを示しています。もうひとつの文書「生物多様性の損失の根本的要因、変革の決定要因及び生物多様性2050 ビジョン達成のためのオプションに関するテーマ別評価(社会変革アセスメント)」は、持続可能な世界に向けた社会変革を促進、加速、維持するため行われた評価の報告書です。

○ 気候変動関連

 中小企業を対象としたGHG排出量算定や削減のコンサルサービスに関して、今期も地方金融機関や損保会社、民間企業(アスエネ、ゼロボードなど)のサービスが注目されています。2024年度2Qでも紹介しましたが、日本政府では中小・中堅企業の省エネ支援する役割として地方金融機関を重要視しています。取引がある地方金融機関から省エネや政府の省エネ支援策の情報を入手することができます。

事業者、特に大企業に対して、自社の事業活動に伴い直接発生するGHG排出(スコープ1および2)のみならず、バリューチェーン全体の排出量、すなわちスコープ3の削減が要求されるなか、その影響を受ける中小企業のSBT取得やRE100宣言に関する記事が掲載されました。SBTでは、日本の中小企業の取得件数は2024年12月現在1,156社で、日本全体の1,509社の76%を占めています。印刷関連では、㈱大川印刷、富士凸版印刷㈱、国府印刷㈱、㈱光陽社、新日本印刷㈱、神田印刷工業㈱、近藤印刷㈱、丸理印刷㈱、宮古印刷インキ㈱、長苗印刷㈱、大洞印刷㈱、㈱研文社および文昌堂印刷㈱の13社が中小企業版SBTを取得しています。一方、「再エネ100宣言 RE Action」は、使用電力を100%再エネに転換することを目標にする中小企業版「RE100」ですが、この1年間に62団体が新たに参加し、2019年10月の設立から5年で386団体になっています。印刷関連では2024年10月31日現在、杜陵高速印刷㈱、㈱大川印刷、㈱橋本確文堂、㈱丸信、富士印刷㈱、㈱光陽社、富士凸版印刷㈱、㈱精好堂、㈱研文社、大洞印刷㈱およびトキワ印刷㈱の11社が宣言しています。

 排出量取引に関して、2023年4月に自主的な排出量取引制度の試行が開始され、同年5月に施行された『GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)』ではカーボンプライシングが明記されていることから、法制化の検討が進んでいます。2026年度から本格的に導入され、スコープ1(燃料の燃焼に伴い発生する温室効果ガス)排出量が年間10万t-CO2以上の事業者が対象となるようです。この内容が明記された「GX2040ビジョン」案が12月26日に公開され、1月26日まで意見募集を行っています。印刷業界では大手3社のみが排出量取引の義務対象と考えられます。

 このほか、2040年度の電源構成で再エネ比率を4〜5割に高める方針が明記された「エネルギー基本計画(第7次)」、および2013年度比で2035年度60%削減、2040年度73%削減を目指す「地球温暖化対策計画」が検討されていて、年度内に公表されます。

○ 資源循環

 前述したINC5以外では、東洋紡の「リサイクル原料100%の工業フィルム開発」(20241028日経)、青山商事の「回収衣類からの再生ウールをスーツに」実現(20241118環境ビジネス)、東大などの「世界の水リスク 用途別に把握 プラットフォーム公開」(20241106環境新聞)に注目しました。

○ 自然共生

 前述したCBD-COP16、IPBES総会以外では、WWFや環境省が行った調査結果から生物多様性の低下が報告されています。

 経団連が2024年10月15日に「企業の生物多様性への取り組みに関するアンケート調査結果概要(2023年度調査)」を公表しました。「生物多様性の主流化」が、2022年度調査時よりもさらに多くの企業で進み、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)に貢献する多様な取組があり質的な充実もみられ、TNFDへの対応を進める企業が大幅に増加して自然関連リスク・機会の特定も進んでいる一方で、「指標、目標の設定や計測」や「シナリオ設定・評価」、「サプライチェーンの複雑さ」など技術面での課題の顕在化しているとまとめられています。GBFに貢献する定量的目標設定では、「プラスチック削減/リサイクル」、「廃棄物削減/リサイクル」、「社有地又は事業拠点における保護区(OCEM等)」、「有害物質排出/廃棄物削減」および「寄付」が多くなっています。

○環境関連法の改正

水銀関連で、水銀汚染防止法および廃棄物処理法施行規則が改正されました。

○ サステナビリティ情報開示

 EUで2024年7月25日、バリューチェーンで人権と環境への悪影響を評価し公表の実施を義務付ける「コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)」が発効しました。EU域内での年間純売上高4億5,000万ユーロ超の企業または企業グループが対象です。

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