○ 法令改正
クマによる人身被害の多発に対応するために、『鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律の一部を改正する法律(令和7年法律第28号)』が4月18日に成立し、4月25日に公布されました。これを受けて環境省は政省令の改正を7月8日に公表し、「緊急銃猟」が可能な「危険鳥獣」としてヒグマ、ツキノワグマおよびイノシシを指定しました。同日には、「緊急銃猟」を実施する市町村向けに「緊急銃猟ガイドライン」も公表しています。人の日常生活圏にクマ・イノシシが出没した際、安全確保した上で、市町村が委託して銃猟する「緊急銃猟」は9月1日から可能になりました。
このほかに、産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法等の一部改正、地球温暖化対策の推進に関する法律施行令の一部を改正(「割当量口座簿等」を「国際協力排出削減量口座簿等」に変更)、環境影響評価法施行令の一部改正(政令市に熊本市を追加)が公布されました。
○ 気候変動関連
今年の日本の夏は、群馬県伊勢崎市で歴代最高気温41.8度を観測、40度超の地点数が過去最多、平均気温も2.3度高く歴代最高となったと気象庁が公表するなど、記録的な暑さとなりました。東京大学や京都大学などの研究者で構成する極端気象アトリビューションセンター(WAC)は、人為的な地球温暖化がなければ起こりえなかったとする分析結果を発表しています。
脱炭素経営に向けた支援に関しては、東京都が企業のCO2算定ツールを300社に無償提供、東京商工会議所が「攻めの脱炭素事例集」(計8社)をウェブで公開、愛媛県が脱炭素支援で認定制度導入、民間では、京葉銀行が事業提携により中堅・中小企業向け脱炭素トータルソリューション拡充、オムロンが製造100社に無料でCN診断し現状把握と施策を提示するサービスを実施、東邦ガスが工場・事業所などのCN実現支援コンサルティングサービスを本格開始などが公表されています。
○ 資源循環
『資源有効利用促進法』改正が5月28日に成立し、資源有効利用・脱炭素化の促進の観点から、特に優れた環境配慮設計(解体・分別しやすい設計、長寿命化につながる設計など)の認定制度が創設されました。プラスチックを使用する製品、具値的には清涼飲料用ペットボトル容器、文具(クリアホルダー、クリアファイル、バインダー)、家庭用化粧品容器および家庭用洗浄剤容器について、認定基準が公表されました。認定を受けると、自治体などのグリーン購入で優遇されたりリサイクル設備への支援が得られたりするなどメリットがあります。
海洋汚染問題に発展したプラスチック汚染問題に対応するために国際的に法的拘束力のある文書(条約)の策定を目指す政府間交渉委員会(INC)が8月5日から15日にかけてスイス・ジュネーブで開催されました。これは、昨年11月25日から12月1日に大韓民国(韓国)の釜山で開催された会合(INC5.1)で合意できなかったため、再会合(INC5.2)として開催されたものです。INC5.1ではプラスチックの生産規制、プラスチック生産時に使う化学物質や使い捨て製品の使用制限、途上国の廃棄物管理を支援する資金負担などが懸案で合意に至りませんでした。INC5.2でも特に生産規制に関してEUや太平洋の島国と中東の石油産油国やインドとの意見の隔たりを埋めることができず、合意は先送りされ、今後、再開会合を開催し、交渉を継続することとなりました。
ケミカルリサイクルに関して、ENEOSと三菱ケミカルがプラスチック油化の開始に向けた設備竣工、荏原環境プラントのケミカルリサイクルの実証プラントが竣工し試験を開始、ENEOSとTOPPANホールディングスが古紙のバイオエタノール化実証プラントを日本製紙富士工場で工事着工などの報道発表が相次ぎ、商業化に向けた進展を見せています。
○ 自然共生
環境省が7月31日に「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)」を公表しました。これは、「生物多様性国家戦略2023-2030」(2023年3月閣議決定)で示された基本戦略3「ネイチャーポジティブ経済の実現」に向けて2024年3月に策定された「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」の具体的な道筋を示すロードマップとして策定されたものです。この中では、ネイチャーポジティブ(NP)経済移行後の絵姿として「個々の企業のNP経営が進み、情報公開を通じ取組が投資家や地域に高く評価され、企業価値の向上と地域価値の向上が結び付き、取組がさらに促進される好循環が生まれている」と描いています。また、NP経営を「自然へのネガティブな影響よりも、ポジティブな影響が上回る経営状態を目指し、個社が自社にとってのリスクを把握した上で、既存ビジネスにおいてリスクを回避できており、新規ビジネスにおいてもリスクに配慮した展開ができている状態。加えて、自社にとっての機会を認識した上で、機会を起点にビジネス化ができている状態」と説明しています。このためには、自然の価値を計測する指標の確立が課題となりますが、2025年度に考え方を整理し、2026年度以降に検討するとしています。 また、2025年度には中堅・中小企業も含めNP経営移行が企業価値向上につながるストーリーを検討・策定し、2026年度以降にNP経済プラットフォームを活性化して取組みを推進するとしています。さらに、中堅・中小企業に関しては2028年度から能力養成や技術開発・支援を行うとしています。
環境省は、NPに関する様々な情報にアクセスでき、その入り口となるサイトとして「ネイチャーポジティブポータル」を8月18日に開設しました。
猪苗代湖が7月15日に、ラムサール条約湿地に新規登録され、日本のラムサール条約湿地は計54か所となりました。ラムサール条約第15回締約国会議(COP15)で事務局長から認定証・登録証がそれぞれ授与されました。
○ 環境経営
国連が7月14日、SDGsの年次進捗報告書「持続可能な開発目標(SDGs)報告2025」を発表しました。2015年9月に採択されているため、10年目となります。国連のニュースリリースでは、「入手可能な最新のデータによると、全ターゲットのうち、順調に進んでいるまたはある程度前進しているものは35%にすぎない一方、半数近くは進捗があまりにも遅く、18%は後退しています」と評価しています。
2025年報告は2024年報告の体裁が踏襲され比較が可能です。比較すると、169のターゲットのうち、2024年から前進したのは14ターゲットで、生産的で持続可能な農業、女性のリーダーシップ、物質資源効率、完全雇用とディーセント・ワーク、児童労働と強制労働、インフラ開発、都市計画政策、気候変動政策などのターゲットです。一方、後退は17ターゲットで、国際貧困、必須サービスへの政府支出、薬物乱用と治療、水質、経済成長、中小企業のフォーマル化、差別撤廃、暴力および関連死の削減などです。この結果から、先進国の取組みは前進しているものの、発展途上国で後退している印象を受けます。報告書では、取組みが遅れている、または、改善が必要な地域として再三「サハラ以南アフリカ」を指摘しています。この地域で大きな前進がないと、SDGsの目標達成は困難です。
今回の報告書では、データシステムの脆弱性を課題とし、特にデータの入手にギャップが残っているとしています。データ取得が改善したのは、目標3(すべての人に健康と福祉を)、目標6(安全な水とトイレを世界中に)、そして目標7(手頃な価格でクリーンなエネルギーをみんなに)です。一方で、依然として進展していないのは、目標5(ジェンダー平等を実現しよう)、目標13(気候変動に具体的な対策を)、目標14(海の豊かさを守ろう)、そして目標16(平和と公正をすべての人に)で、40%程度にとどまっています。これは、脆弱な財政基盤によるものであり、参加各国が自国のデータ・統計システムへの国内投資を増やすとともに、国際パートナーシップの支援も必要と報告書では指摘しています。