IBAT (Integrated Biodiversity Assessment Tool)は、バードライフ・インターナショナル(Birdlife International)、コンサベーション・インターナショナル(Conservation International)、国際自然保護連合(IUCN)、国連環境計画世界自然保護モニタリングセンター(UNEP-WCMC)の4つの保護団体の連合が運営する生物多様性データプラットフォームです。2008年に設立され、本部は英国ケンブリッジに置かれています。IUCN絶滅危惧種レッドリスト、世界保護地域データベース(WDPA)および主要生物多様性地域の世界データベース(WDKBA)のデータ、さらにこれらから派生するデータとして種の脅威の軽減と回復(STAR)指標も提供しています。


IBATを使用して、日本国内の2つの地点を探索してみます。ひとつは北海道上川郡新得町役場(以下「新得町役場」)で、『自然環境保全法』に基づきその自然環境が人の活動によって影響を受けることなく原生の状態を維持していて特に保全が必要な地域として指定する「十勝川源流部原生自然環境保全地域」が町内にある場所です。もうひとつは東京都庁で、敷地面積約88,000m2(東京ドームの1.9倍)の都市公園が隣接しているものの、新宿副都心の高層ビル群の一角に位置している場所です。

IBATの探索結果を見ると、IUCNレッドリストの種の数、保護区および生物多様性の保全上重要な地域の数は、いずれも東京都庁の方が多くなっています。東京都庁の方が自然豊かな場所に位置していると判断できる結果となっています。これは、調査した範囲が50km以内であること原因があると考えられます。東京都庁の場合、50km以内には関東平野全体、東京湾、奥多摩・丹沢の山地、千葉県の手賀沼・印旛沼などの多様な生態系が含まれています。一方、新得町役場は富良野市や帯広市が含まれるものの日高山脈や大雪山国立公園などの山地です。このように50kmの範囲に含まれる生態系の多様さが結果に表れていると考えられます。IBATでは50km以下の診断結果も得られますが有料です。したがって、無料で調査できる範囲ではIBATは有用なツールではないと考えます。

また、新得町役場は十勝川源流原生自然環境保全地域や大雪山国立公園に近く、自然環境保全が進んでいる地域であるにも関わらず、役場のSTARtおよびSTARrはそれぞれ0.0002、0.0024で、「絶滅危惧種の保全状況が極めて初期段階」と解釈できる数値を示しています。この点からも、IBATを使用して日本国内の地点で探索することに疑問があります。なお、STARt(Species Threat Abatement and Restoration target)は、種の絶滅リスクを軽減するための行動を取っているかを定量的に評価する指標で、Highスコアほど行動が絶滅リスクの軽減に寄与していることを示します。STARr(Species Threat Abatement and Restoration restoration target)は、絶滅危惧種の回復(restoration)に向けた行動の効果を定量化する指標で、Highスコアほど行動が効果的に実施されている状態を示します。
日本国内に限れば、自然環境保全上の重要な地域の把握には、環境省が公開している「生物多様性マップ」が有用です。これは、保護地域、自然共生サイト、生物多様性保全上効果的な場所等を地図上で確認できるツールで、2025年、4月21日から施行運用を開始しています。日本国内の任意の地点で、近傍の自然環境保全地域、自然公園、鳥獣保護区、特定植物群落などが図示されます。さらに、市区町村レベルで、地域生物多様性戦略を策定しているかも確認することができます。
