
○ 法令改正
光化学オキシダントの環境基準の見直しが行われています。環境省は、令和4年3月から令和7年1月にかけて検討会を立上げ、光化学オキシダントのヒトへの健康影響および植物への影響について検討しました。これを踏まえ、今年度に小委員会で定量評価のとりまとめを行い、パブリックコメントを経て12月12日に、「大気汚染物質に係る環境基準の見直しについて (第一次答申)」を公表しました。ここで、「オゾンとして、8時間値が0.07ppm以下であり、かつ、日最高8時間値の1年平均値が0.04ppm以下であること」に変更することが妥当との結論がだされました。現在の光化学オキシダントの環境基準は昭和48年に決定された「1時間値が0.06ppm以下であること」です。新基準は、告示により施行されます。
光化学オキシダントは、ヒトにたいしては呼吸器系の影響を及ぼし、植物に対しては二酸化炭素吸収に影響を及ぼします。光化学オキシダントは、環境基準達成率が極めて低いため、2000年代に大気汚染防止法を改正して排出規制が開始されました。同時に、VOC排出量が多い業界に対しても自主的取組みが課されました。印刷産業も対象のひとつでした。2010年度までに印刷産業を含め、産業界が排出を大きく削減したにも関わらず、環境基準の達成率は改善されなかった経緯があります。今回の答申に基づき環境基準が改正されても当面は、現在印刷業界で行っている発生源対策の強化にはならないと考えます。
○ 気候変動関連
UNEP(国連環境計画)が、COP30開始直前の11月4日に「排出量ギャップ報告書2025」を公表しました。2024年のGHG排出量は57.7GtCO2eで、化石燃料の増加に加え森林破壊と土地利用変化により前年から2.3%増加し、2022~2023年の増加率1.6%と比較して高い数値であったとしています。パリ協定で提出が義務付けられているNDC(Nationally Determined Contributionの略で和訳は「国が決定した貢献」、排出量削減に向けたシナリオと目標)を期限の9月30日までに提出または発表した国は64ヵ国で、ここに示された各国の目標が達成されたとしても、1.5℃目標達成は困難であり、オーバーシュートは避けられないとまとめています。地球温暖化が0.1℃でも進むと損害や損失が一層深刻化するため、また、地球温暖化対策はビジネスチャンスにもなるため、さらなる対策に取り組み、オーバーシュート期間を短くする必要性があると指摘しています。
IEA(国際エネルギー機関)が11月12日に「World Energy Outlook 2025」を公表しました。今後は電力需要が増加し、太陽光発電が牽引する再生可能エネルギーが急成長し、原子力発電が復活するものの、総エネルギー消費量の増加ペースが速くなるため、天然ガス供給量が急増し、石炭使用も当面続くと予想しています。世界のエネルギー関連CO2排出量は、2024年に過去最高の38ギガトン(GtCO2)に達し、現在公表されている政策ではこの水準で推移すると予測され、 1.5℃目標のオーバーシュートはもはや避けられないと指摘しています。
このような状況で、国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)が11月10日から同年11月22日(1日延長)にかけてブラジル連邦共和国・ベレンで開催されました。合意文書である「グローバル・ムチラオ決定」から「脱化石燃料」の工程表が削除されたことから、新聞などの報道は条約の実効性に疑問を呈しています。しかし、2015年のCOP21で採択されたパリ協定は、実施に関する課題、すなわち長期温度目標、排出削減・吸収源拡大メカニズム、適応報告、「損失と損害」基金、進捗報告(透明性)などのルール、そして最後まで議論の対象となったクレジットメカニズムおよび(途上国向け)資金などは前回のCOP29までに合意しています。つまり、パリ協定は実施段階に入ったと言われ、当初から全会一致の採択の原則の下では当初から目覚ましい成果が期待できないCOPと認識されていました。一方で活況であったのは、パビリオンやセミナー、ワークショップなどのサイドイベントです。ここからいくつかのイニチアチブが出されています。議長国のブラジルが主導した熱帯雨林保全のための新たな国際基金「Tropical Forest Forever Facility」設立、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)の「ビジネスのためのグローバル循環プロトコル(GCP)」初版公表、環境省の「日本の気候変動対策イニシアチブ2025」公表などがあります。
来年のCOP31の開催地はトルコですが、交渉議長国はオーストラリアです。2027年のCOP32はエチオピア・アジスアベバで開催することが決議され、来年1月に離脱する米国は不在であるものの、交渉の枠組みは当面継続されます。
日本国内に関しては、環境省がパンフレット「深刻化する豪雨~我々はどのようなリスクに直面しているのか~」を10月16日に公表しました。地球温暖化が進むにつれて気象災害がどの程度深刻な影響をもたらすかを行政機関や企業、市民に分かりやすく提供し、対策(適応策)を考えるきっかけを作ることを目的として作成されたものです。2018年7月に大規模な浸水被害もたらした豪雨をもとに、2℃および4℃上昇した場合をシミュレーションしたところ、西日本の降水量はいずれの温度上昇の場合でも現在の気候が続く場合より増加し、4℃上昇では河川の流水量も平均で約1.5倍となる結果でした。温暖化の影響は既に現れていて、大雨による深刻な被害を回避・軽減する対応策(適応)を検討する必要があり、完全な防御はないことを知り、最悪のシナリオを想定して、パンフレットで提示した考え方を参考に、自助公助を踏まえた対応策を考えることが必要としています。
『GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)』が今年5月に改正され、CO2の直接排出量(Scope1)10万トン以上の事業者に2026年度から排出量取引制度への参画が義務化されます。この排出量取引はGXリーグで2年間実施した試行的取組の成果に基づいて導入されるものです。GXリーグは、2050年のカーボンニュートラル実現と社会変革に向けて意欲的に取り組む産官学の協働する場で、2023年4月に活動を開始しました。現在、参画企業数は700社超で、そのCO2排出量は日本の5割超を占めています。
GXリーグ参画企業には、現在は自社からの排出するCO2排出量の削減目標策定とサプライチェーン上での排出削減やGX製品投入が求められています。排出量取引参画の義務化が法制化されたことから、活動は次の段階に進みます。12月12日に公表された経済産業省とりまとめでは、GXリーグの活動の重点をGX製品投入に加えサプライチェーンの削減に移すとしています。この中には、中小企業が影響を受ける取組みがあります。ひとつは、GXリーグに参画する大企業が中小企業に対してコストの負担や技術支援、人的支援を行うことを推奨している点です。これは、中小企業のGHG排出量は日本の20%弱を占め、カーボンニュートラルに向けて中小企業の排出削減は重要であるにもかかわらず、中小企業にとって脱炭素への取組みは人的にも金銭面でも大きな負担で、進まないことが背景にあります。ふたつめは、製品単位でカーボンフットプリント(CFP)を算定・開示し、目標を設定することを推奨している点です。CFPの削減には一次データの使用が好ましく、サプライチェーンで関連する企業に対してCO2の算定・報告を要求される可能性があります。また、大企業が算定したCFPの正確性を確保するため第三者保証を取り入れた場合、サプライチェーンの企業に対してその審査に協力を求められる可能性があります。
○ 資源循環
「ビジネスのためのグローバル循環プロトコル(GCP)」(初版)が、ブラジル・ベレンで開催したCOP30のジャパン・パビリオンにおいて、環境省、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)及びUNEP(国連環境計画)ワン・プラネットネットワークの共催により開催されたイベントで発表されました。GCPは、組織の循環型パフォーマンスとその影響を測定、管理、伝達するためのグローバルな枠組みで、フレーム-準備-測定-管理-開示のステージで構成されています。このプロトコルは、グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)、国際標準化機構(ISO)59020(循環経済-循環性能の測定と評価)、ISO 59004(循環経済-用語、原則、実施のためのガイダンス)、GHGプロトコル、国際財務報告基準(IFRS)S1/S2、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)、統合報告(IR)など、広く認知されているサステナビリティおよび情報開示フレームワークと整合しているとしています。
GCPは、気候変動の分野のTCFD、自然再興の分野のTNFDに相当する資源循環の分野におけるプロトコルとなります。TCFDの気候変動関連情報開示の枠組みは、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が財務情報開示の要件として取り入れてIFRS S1/S2を2023年6月に策定し、これを受けて金融庁金融審議会に設置されたSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が日本向けの情報開示基準を2025年3月に策定したことから、情報開示の枠組みに取り入れられています。TNFDの自然関連情報開示の枠組みについても、ISSBが財務情報開示基準に取り込みを決定し、2026年10月にアルメニアで開く国連生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)までに、追加開示要件の公開草案を策定すると発表したことから、将来情報開示の枠組み取り入れられることが予想されます。GCPもいずれ国際的な情報開示基準に取り込まれる可能性があります。
リチウムイオン電池が使用されている製品の使用時及び廃棄時の火災が頻繁に発生しています(スマートフォン、モバイルバッテリ、携帯用扇風機、ワイヤレスイヤホン、ノートパソコン、スマートウォッチ、電動アシスト自転車、コードレス掃除機など)。また、リチウムイオン電池には特定国に依存している重要鉱物資源(リチウム、コバルト、ニッケル)が含まれ、経済安全保障・産業競争力強化の観点から、これらの回収・再資源化の促進も重要です。このため、関係省庁が連携して「リチウムイオン電池総合対策パッケージ」を策定しました。このなかでは、「2030年までに、リチウムイオン電池に起因する重大火災事故ゼロを目指すとともに、国内に十分なリサイクル体制を構築する」ことを目標に掲げています。リチウムイオン電池使用製品を利用する際は、賢く選ぶ(Cool choice)、丁寧に使う(Careful use)、正しく捨てる、そして資源循環(Correct disposal wit better recycling)が重要とし、留意点を挙げています。また、環境省は、リチウムイオン電池の適正処理に関する詳しい情報を集約した「リチウムイオン電池等に関する特設サイト」を立ち上げています。
ケミカルリサイクルに関して、積水化学工業が燃性ごみをエタノールに変換するプラントを148億円の減損処理を行いましたが、太陽石油と三井化学がケミカルリサイクル製品の供給拡大に向けた協業検討を開始、レゾナックがプラスチックのケミカルリサイクルによる低炭素アンモニア事業拡大を決定など廃プラスチック関連では今期もケミカルリサイクル拡大に向けた動きがありました。
○ 自然共生
国際標準化機構(ISO)は10月7日、ルワンダのキガリで開催された2025年年次総会で、生物多様性では世界初の国際規格となるISO 17298「組織のための生物多様性–ガイドラインと要求事項」を発表しました。原文は確認していませんが、組織が生物多様性への依存、インパクト、リスク、機会を評価する内容で、ISO 14001やISO 26000(社会的責任に関する手引)、TNFD、SDGsなどの規格やイニシアチブと整合し、昆明・モントリオール世界生物多様性枠組みにも貢献するものと紹介されています。
企業の生物多様性への取組みに関する調査結果が2つ公表されています。経団連の「企業の生物多様性への取組に関する(2024年度調査)アンケート調査」と商工中金の「中小企業のカーボンニュートラルに関する意識調査」です。どちらも毎年行われています。企業が実施している取組みに着目すると、経団連調査では、昆明・モントリオール生物多様性枠組み(GBF)のターゲットと関連付けて整理しています。最多は「ターゲット8:気候変動対策(含、NbS/EbA)」で、次いで「ターゲット15:ビジネスの影響評価・開示」、「ターゲット3:(30 by 30)/保護地域及びOECM」です。産業部門「パルプ・印刷」はGBFに貢献する取組みのある企業の割合が最も多くなっています。ただし、これらの結果は昨年度と同じです。昨年度の報告では、GBFの各ターゲットに関連する定量的目標の設定について具体的な目標の事例が紹介されていて、「プラスチック削減/リサイクル」、「廃棄物削減/リサイクル」が上位でしたが、今年度の報告には紹介はありません。一方、商工中金調査は、設備投資動向調査の付随調査として行われています。「生物多様性・自然資本保護についての方策・検討状況」で「なんらかの方策を実施・検討」と回答した割合が業種別で最も多いのは「印刷」で、65.5%が実施・検討と回答しています。この具体的に実施している方策は、アンケートであらかじめ準備された選択肢かもしれませんが、業務プロセスの改善を通じた環境負荷の低減、自社の環境に関する実績(水使用量・廃棄物等)の測定、環境負荷低減を考慮した原材料等の調達、自社の環境に関する削減目標(水使用量・廃棄物等)の設定、環境配慮型製品・サービスの開発です。これらは日常業務として当り前に行っていることで、生物多様性・自然資本保護とは無関係と考えがちですが、TNFDのガイドラインを踏まえると的外れではありません。
○ 環境経営
環境省は、GHGプロトコル準拠に対応した「エコアクション21アドバンスト」をエコアクション21(EA21)の追補版として公表しました。EA21は、1996年に開発された主に中小事業者向け環境マネジメントシステムで、2004年には認証制度を創設しました。2025年9月末時点で7,564事業者が認証登録を受けています。EA21は、認証を取得すると環境情報の公開義務があるものの、取得の際に認証審査員から助言を受けられるなど、ISO14001と比較して認証取得がしやすく、日本国内のみで事業展開する事業者にとっては環境経営実践企業の証として有効なマネジメントシステムです。今回、GHGプロトコルへ準拠するために追加された要求事項は4項目で、①組織単体から連結対象組織へ拡大する、②Scope1およびScope2の算定対象を6ガスに拡大し、基準年を設定する、③環境経営目標および環境経営計画にGHG排出量削減の項目を含める、④環境経営レポートにGHGプロトコルに基づく温室効果ガス排出報告を記載する、です。この要件を満たすことにより「エコアクション21アドバンスト」の認証を受けられます。認証取得によって排出量自体は第三者保証の扱いにはなりませんが、中小企業版SBTなど国際イニシアチブへの申請やCDP 質問票への回答などにおいて、GHGプロトコルに準拠したことの証明として活用できます。
○ 化学物質管理
製品に含まれる化学物質の情報伝達は、印刷産業では馴染みは薄いですが、アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP:Joint Article Management Promotion-consortium) が2016年に運用を開始したchemSHERPAが現在主流になっています。 ただし、chemSHERPA運用開始前に使用されていた、自動車業界の車載PF、JAMP-GPやJSPSSI様式などは現在でも使われています。また、chemSHERPAを使用しても、調査対象物質が追加されると情報伝達に多大な負荷がかかっていたり、川下企業が保有する完成品の情報がリサイクルを行う静脈企業に伝達されなかったりする課題がありました。これらの課題を改善する目的で開発されたのがCMP(Chemical and circular Management Platform)で、chemSHERPAデータのインプット、アウトプット機能を踏襲し、経済産業省が提唱するウラノス・エコシステム(自動車・蓄電池トレーサビリティ管理システム)との連携により構築したプラットフォームです。2026年1月までベンダー間テスト、3月まで総合テスト、4月から一般ユーザーを入れた実証を経て、9月に本格稼働する予定です。CMPの本格運用に備えて、chemSHERPAを運用していたJAMPは2025年10月29日にCMPコンソーシアムへ改組しています。
○ サステナビリティ情報開示
情報はありません。