○ 国会で成立した環境関連法
2025年通常国会(第217回)に環境関連では以下の5本の法律が提出され成立しました。
① 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律(内閣官房)
【経過】閣議決定: 2月27日、第217回国会、議案番号:28、本会議議決日:5月28日、公布: 6月4日法律第52号
【概要】排出量取引制度の法定化、化石燃料賦課金の徴収に係る措置の具体化、GX分野への財政支援の整備、再生資源の利用義務化、環境配慮設計の促進、GXに必要な原材料等の再資源化の促進、サーキュラーエコノミーコマースの促進
② 海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律(内閣府)
【経過】閣議決定: 3月7日、第217回国会、議案番号:46、本会議議決日:6月3日、公布:6月11日法律第59号
【概要】排他的経済水域(EEZ)における海洋再生可能エネルギー発電設備の設置を許可する制度の創設
③ 環境影響評価法の一部を改正する法律(環境省)
【経過】閣議決定: 3月11日、第217回国会、議案番号:51、本会議議決日:6月13日、公布:6月20日法律第73号
【概要】既存の工作物を除却又は廃止して、同種の工作物を同一又は近接する区域に新設する事業を実施しようとする場合の手続きの明確化
④ 鳥獣保護管理法改正(環境省)
【経過】閣議決定: 2月21日、第217回国会、議案番号:27、本会議議決日: 4月18日、公布: 4月25日法律第28号
【概要】市町村長がクマ等の銃猟を捕獲者に委託して実施させる(緊急委託)ことを可能にする
⑤ 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(厚生労働省)
【経過】閣議決定:3月14日 、第217回国会、議案番号:57、本会議議決日: 5月8日、公布: 5月14日法律第33号
【概要】個人事業者等に対する安全衛生対策の推進、職場のメンタルヘルス対策の推進、化学物質による健康障害防止対策等の推進、機械等による労働災害の防止の促進等、高齢者の労働災害防止の推進
注目は⑤の『労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律』で、労働者数50人未満の事業場についてもストレスチェック実施が今後定められる準備期間ののちに義務付けられます。また、労働安全対策に関しては、「労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和7年厚生労働省令第57号)」が4月15日に公布され、すべての事業者に対して職場の熱中症対策の体制整備、手順作成、関係者への通知が義務付けられ、6月1日から施行され、パンフレットやリーフレットが公開されています。
○ 法令改正
『廃棄物処理法』施行規則が改正され、『PRTR法』が適用される事業場は処理委託契約書に『PRTR法』報告対象化学物質の名称と量または割合を記載する必要があります(PIEMS-Lab解説)。
電気めっき業に関して、現行のほう素およびふっ素の排水基準が2028年9月30日まで延長されました。
○ 気候変動関連
2023年度の温室効果ガス(GHG)排出量および吸収量が4月に公表されました。電源の脱炭素化や製造業の国内生産活動の減少によるエネルギー消費量の減少などによりCO2排出量が減少、また、代替フロン等4ガス(HFCs、PFCs、SF6及びNF3)も減少したことから、前年度から4.0%減少し10億7,100万トンでした。一方、森林やブルーカーボンによる吸収量は前年度とほぼ同量の約5,370万トンでした。この結果、排出量から吸収量を差し引いたGHG排出量・吸収量は10億1,700万トンで、前年度から4.2%減少、基準年の2013年度からは27.1%減少しました(PIEMS-Lab解説)。
東京都は、カーボンクレジットを購入できるシステム「東京都カーボンクレジットマーケット」を4月に開設しました。取り扱っているクレジットは、政府主導のクレジットである「J-クレジット」と民間機関によってクレジット化した「ボランタリークレジット」です。J-クレジットは、『温対法』および『省エネ法』の報告制度であるSHK制度に活用でき、再エネ由来のJ-クレジットはCDPやSBT、RE100にも活用できます。一方、ボランタリークレジットはこれらには活用できませんが、種類が豊富であるため、企業や商品、サービスでネット・ゼロをアピールする際に、それらに適したクレジットを選択することができるメリットがあります。ネット・ゼロをアピールする際の有用な選択肢のひとつになります。
○ 資源循環
2023年度の食品ロスの発生量の推計値が6月27日に約464万トンと公表されました。内訳は家庭系が約223万トン、事業系が約231万トンです。この推計は、事業系食品ロスについては『食品リサイクル法』に基づく事業者からの報告等をもとに、家庭系食品ロスについては市町村に対する実態調査等をもとに推計されています。食品ロスに関しては、2019年に『食品ロスの削減の推進に関する法律』が制定され、今年3月25日は「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」が閣議決定されています。削減目標は、2000年度比で2030年までに家庭系食品ロスが半減、事業系ロスが60%です。消費者庁の報道発表では、2000年度の食品ロスは家庭系が433万トン、事業系が547万トンで、それぞれ46%、58%の削減です。また、2023年度の食品ロス量464万トンは国民一人当たり37kg/年に相当し、経済損失は4.0兆円(31,814円/年・人)、GHG排出量は1,050万t-CO2(84kg-CO2/年・人)と試算しています。環境省は4月8日に「~自治体・事業者向け~消費者の行動変容等による食品ロスの効果的な削減に向けた手引き」を公表しています。対象は自治体であり、事業者は「自治体との連携等を通じて、地域の食品ロス削減に貢献したい地域の関連主体(事業者 等)」と定義しています。事業系食品ロスは主に食品関連事業者(食品製造業、食品卸売業、食品小売業、外食産業)から発生するため、 ①未利用食品等の提供(食品寄附)、②外食時の食べ残しの持ち帰りの促進、③食品廃棄物の排出の削減を柱に削減に取り組んでいます。印刷産業は消費者の立場に近く、飲食店での食べ残しの削減(3010運動)・持ち帰り(mottECO)、社員食堂での調理残渣の削減などに取り組む必要があります。
○ 自然共生
環境省は4月に「生物多様性見える化システム」の試行運用を開始したと発表しました。TNFDが2023年9月に公表した自然関連の情報開示の枠組みでは、自然関連課題(依存、インパクト、リスク、機会)を特定し、評価し、優先付けし、監視するプロセスとして、LEAPアプローチの使用を推奨しています。特定(Locateフェーズ)の段階では、生物多様性の重要性や生態系の十全性などから自然関連課題がある場所(要注意地域)を特定します。この際に使用する代表的なツールとしてIBATなどがあります。しかし、この習熟に時間を要することに加え、世界規模で作成されているため日本国内で利用するにはデータ品質に疑問があります。一方、環境省の見える化システムは、簡便に工場周辺の保護地域、自然共生サイト、生物多様性保全上効果的な場所を確認できます。このため、国内拠点のみで事業活動を行っている場合は、有用な評価ツールです。
昨年9月に奄美大島に持ち込まれた特定外来生物であるマングースが絶滅したと環境省が宣言しました。外来生物が持ち込まれると生態系に大きな影響を及ぼし、希少な在来生物を絶滅させる可能性もあったり、農産物にも被害を及ぼしたりします。自治体レベルでも外来種の防除を積極的に行っているため、国土交通省は、4月に「河川の外来植物対策ハンドブック(案)」を公表しました。事業者にとっては生物多様性活動のひとつとしてボランティアで参加する際の参考になります。ここでいう「外来植物」には、海外から日本に持ち込まれた「国外由来の外来種」と、日本の在来種であっても本来分布していない地域に導入された「国内由来の外来種」の両方が含まれます。また、外来生物対策として環境省は、改定版「オオクチバス等に係る防除の指針」、「アライグマ防除の手引き(改訂版)」を公表しました。
○ 環境経営
「令和7年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」が6月6日に公表されました。テーマは『「新たな成長」を導く持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築』です。内容は、環境省の報道発表のとおりです。解釈を加えると、暮らしを支える自然から得られる恵みが人類の活動により破壊され、さまざまな環境問題を生じさせています。環境のもたらす恵みを将来世代まで引き継いでいくためには、現在の経済社会をネット・ゼロで、循環型で、ネイチャーポジティブが統合されたものへと大胆に変革していくことが必要不可欠です。昨年5月に閣議決定した第六次環境基本計画では、「循環共生型社会」を構築し、現在のみならず、将来にわたって「ウェルビーイング/高い生活の質」をもたらす「新たな成長」の実現を目指すことを打ち出しています。今回の白書では、「新たな成長」を導くグリーンな経済システムの構築をテーマに、昨今の環境の状況、施策等を交えて概説しています(PIEMS-Lab解説)。
中小企業に関しては、以下の記述があります。
・第1部第1章第3節「持続可能な社会に向けたグリーンな消費」の中で、地域金融機関等や商工会議所が地方公共団体と連携して中小企業の脱炭素を支援することが効果的であり、環境省はモデル事業を通じて支援ツールを公表している旨(p16、p113)
・第2部第1章第1節「地球温暖化対策」の中で、中小企業の省型設備導入における資金面の公的支援の一層の充実、削減したCO2のJ-クレジット化による資金還元を推進する旨(p103、p113)
・リースで脱炭素機器を導入する場合に沿う-リース料の一定割合を補助する事業(p254)
・「省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム」(EEGS)においては報告義務のない中堅・中小企業が排出量算定・公表を容易にできる環境を整備(p260)
・我が国の産業競争力の強みであるバリューチェーンを構成する中堅・中小企業の脱炭素化を推進するため、各地域の自治体、金融機関、経済団体等が連携して地域ぐるみで支援する体制を構築し、地域ごとに多様性のある事業者ニーズを踏まえ伴走的な支援を推進します(p299)。
○ サステナビリティ情報開示
脱炭素社会の実現に向けた気候関連のリスク・機会の情報開示に加え、自然再興(ネイチャーポジティブ)の実現に向けた自然関連課題(依存、インパクト、リスク、機会)に関する情報開示が進んでいます。環境省は情報開示に関する支援事業を通じて得た知見を「TCFDシナリオ分析と⾃然関連のリスク・機会を経営に織り込むための分析実践ガイド」としてまとめていますが、4月には令和6年度に実施した支援事業を踏まえて改訂しました。さらに、6月には「環境課題の統合的取組と情報開示に係る手引き」を公表しました。ここでは、企業が環境分野ごとに開示の要求事項に個別に対応するのではなく、バリューチェーン全体を視野に、自社にとって重要度の高い課題や相互関係性の高い課題から優先的に統合的に取組みを始め、環境課題間のつながりを意識しながら取り組む「統合的開示」を推奨しています。実例として、伊藤園、キリンホールディングス、リコー、アサヒグループホールディングス、積水化学工業、日本生命、日立ハイテク、大成建設の事例を紹介しています。
サステナビリティ開示基準(SSBJ基準)を2025年3月5日に公表したサステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、6月にSSBJ基準の解説セミナーを開催し、資料の公開およびアーカイブ配信をおこないました。また、多くの質問が寄せられたなど関係者のニーズが高いもの関する解説を「SSBJハンドブック」として公開しています。