1.はじめに

環境の視点で現在の地球を見ると、気候変動、生物多様性の損失、汚染という3つの危機に直面しています。気候変動の主な原因は化石資源の燃焼で、地球の平均気温は産業革命前と比較して1.45℃(±0.12)高くなり[令和6年環境基本計画の冒頭から引用]、世界で異常高温、気象災害が多発しています。生物多様性の損失の原因は、資源の採取・補充、陸・淡水・海洋の利用の変化、気候変動、汚染・汚染の除去、侵略的外来種の導入・除去とされ、生態系サービスの低下が懸念されています。汚染には化学物質が原因である大気、水質および土壌の汚染があり、海洋プラスチック問題を含めた廃棄物の問題も含まれ、ヒトや生物に健康被害を引き起こします。

気候変動に関しては、CO2排出量という世界共通の指標があり、事業活動に伴う排出量はエネルギー使用量と相関するため、省エネ活動として気候変動対策に取り組むことができます。

汚染はその原因となるのが化学物質と廃棄物です。印刷産業が関係する化学物質には、ボイラーなどの燃焼に伴って発生する窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)、自動現像機の薬剤に含まれるふっ素、ほう素や、グラビア刷版のクロムメッキで使用する六価クロムなどがあります。しかし、これらの設備がない事業場、例えば、無処理版のみを使用しているオフセット印刷事業場、デジタルプリンターのみを設置している事業場はこれらの化学物質の排出源とはなりません。それでも、洗浄などで使用する溶剤は大気汚染の原因となったり、資材にも大気や排水、土壌を汚染する化学物質を含んでいる可能性があります。このような化学物質を使用している場合でも、購入する溶剤や資材のSDSを入手して含まれる化学物質を把握して、廃棄物を含めて管理することにより、汚染を最小限にすることができます。管理すべき化学物質を使用していなくても、排水はBODや窒素含有量、大腸菌数などが水質汚染の原因となる可能性がありますが、公共下水道への排水や浄化槽の設置などにより、対応できます。汚染対策は、購入する溶剤や資材に含まれる化学物質の把握、排水の管理によりに取り組むことができます。

生物多様性に対しては、印刷産業にとっても森林資源から生産される“紙”を使用しているため、無関係ではありませんが、紙は印刷会社が生産していません。生物資源を直接原材料としている業界、たとえば紙・パルプ製造業や農林水産業、食品関連業、化粧品・医薬品製造業などと比べると関係が深くありません。印刷産業の大半を占めている中小企業にとっては、用紙の購入先は大手企業であり、これらの企業では当然、生物多様性などに配慮して原材料を調達しているので、中小企業が改めて紙が生物多様性に与える影響を考慮する必要はなく、最低限、適切に管理された森林から生産された紙であることを確認すれば足りるとも考えられます。

それでも、事業活動を行う上では生物多様性とは無関係ではないはずなので、印刷産業が生物多様性に取り組む背景を考えてみます。

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